副社長と秘密の溺愛オフィス

「とりあえず、最初の難関は秘書課のミーティングです。これをつけてください」

 差し出されたのはマスクだ。

「重ね重ね失礼ですが、紘也さんは少々口が過ぎることがありますので」

 これでだまっていろと言うことか。

「最初にのどを痛めていると言ってくだされば大丈夫だと思います」

「考えたな」

「秘書課では何かあれば石丸(いしまる)さんに頼ってください。彼女は少々噂好きのうっかりさんですが、仕事はできますし素直でいい子ですから」

「わかった。とりあえず行ってくる」

 立ち上がった俺を心配そうに見つめてくる。

「そんな顔しなくても大丈夫だ。俺の方がおまえよりも社歴が長いんだぞ。俺を誰だと思っている」 

 そう言った俺にすでに眉をひそめている。

「はい、存じ上げております。しかし今日からは副社長〝甲斐紘也〟ではなく平社員〝乾明日香〟ですので、まずは『俺』ではなく『わたくし』に改めてくださいね」

「わかった、わかった! 行ってくる」

 普段物静かな明日香が、ここまで口うるさくいってくるってことは相当心配しているってことだろうな。

 副社長室を出て廊下を歩いていく俺を、彼女は心配そうに見送っていた。 
  
< 69 / 212 >

この作品をシェア

pagetop