クールアンドドライ
 課長が言うには、新規の場合何種類か提案して、相手に考える時間を多く持ってもらう方がいいらしい。
まぁ、そうだよね~。
1こだけじゃ、断られたら、そこで終わりだもんね。
ひろにぃに紹介してもらった、営業先は、司法書士さんの個人事務所で、最近独立したらしい。
何度か通い、やっと話を聞いてくれる時間を作ってもらった。
出来れば新規の契約を取りたい。

 その日の午後、資料室にいた。
何種類か、提案しろっていわれてもなぁ。
機種の違いがまだ良く分からない。
ということで、課長に言われた通りの機種の資料を探す。
そして、暫し立ち読みしていた。

 ガチャッと音がして誰かが来た。
本棚に寄りかかって資料を見ていたら顔の横に腕が見えた。
えっ?
ふと見上げると、「もう、定時だぞ。」と言う課長と目があった。
「あ、すみません。」そう言って資料を閉じると、「メガネないほうがいいな。」と顔を近づけられる。
ち、ちかーいっ!
「な、なんで、ですか?」顔を背けながら聞いた。
「汚名返上出来ねーからな。壁、つくられると。」 
 えっ!
「そんなに気にしてたんですか?」
驚いて聞いてしまった。
課長は、ふぅ~と溜め息を吐いてから、腕を本棚から離した。
ああ、やっと普通の距離だ。
さっきまで、壁ドンかよっ!って思ってたから、ついつい、ドキドキしちゃって落ち着かなかった。
 
 「気にするよ俺だって、お前に言われたら、尚更。」
そう言う課長は、少し悲しそうだった。
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