クールアンドドライ
 クールアンドドライと言われた、翌週明け。
珍しく、営業事務の先輩が、ちょっと緊張気味に話かけてきた。
「週末、吉沢くんとデートだったの?」と、早速誤解された。
 「いや、ただ単に、夕飯をおごってもらっただけですけど。」
「へー、じゃあ、吉沢くんって、滝ちゃん狙いなのかなぁ?」
 「えっ?なんでそうなるんですか?」
「だって、有名だもん裏通りのダイニングバー、雰囲気がいいから、ちょっと口説きたい女の子と行くのに丁度良いんだってさ。値段もそんなに高くないし。」
 「そうだったんですか?」

 知らなかった。

 営業事務の先輩、藤森さんは噂好きの、ミーハーな性格の女性で、周りから浮いてる私にも、こうやって情報を教えてくれる。
まぁ、営業事務は、私を含めて4人しか居らず、正社員は私と彼女だけしかいない。
従って、仕入れた噂を共感しあえる仲間がそばに私しか居ないという理由もあるけど。

 それにしても、噂好きって、会社近くの飲み屋さん情報まで手に入るのか。
今まで、興味なさすぎだったのかなぁ。
ボーッとしている内に、藤森さんは自席に戻っていった。

 しまった。
誤解を解くのを忘れた。
多分、彼女の中で、吉沢さんは私狙いっていう事になってしまう。
でも、もう始業時間になってしまって、仕方なく自分のデスクに戻った。

 噂の広がる速度って、本当にあっという間なんだな。
昼休みに早速、人事部の杉本先輩に捕まった。
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