運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「うん。……いい子だ。じゃあ、早いところ日本に帰って院長に報告しよう」
満足げにそう言った悪魔――藍澤天河はぎしりと音を立ててベッドを降りると、シャワーを浴びにいくのかバスルームへ続く扉に消えていく。放心状態で部屋に取り残された私だけど、シャワーの水音が聞こえてくるとハッと我に返った。
もしかして、今、チャンス……?
「……逃げよう」
ひとりでウン、と頷き、ベッドの周りに散らばった服を拾い集めて慌てて着替え始める。
その途中で携帯が鳴り、この忙しい時に誰よ!と思いながらバッグからスマホを出した瞬間、私は固まった。
「お父さん……」
私のもとに悪魔を寄こした張本人からの電話。言いたいことはたくさんあるけど、今は逃げるのが先決だし……。
出ようか出まいか悩んだけど、私を取り巻く状況をきちんと把握しておきたくて、結局通話をタップした。
「……もしもし、お父さん?」
『おお美琴か。写真見たぞ。すっかり藍澤くんと仲良くやっているようで安心したよ』
「え? なに、写真って……」
ピンときていない私に気付いて、父が説明を加える。