運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
――ピリリリ、と無機質な電子音が部屋中に響き、藍澤先生がぴたりと動きを止めた。
そうして体の内側にこもった熱を逃がすように、ふうっと長めに息をつくと、ベッドから降りてテーブルの上のスマホを手に取った。
「……知らない番号だな。もしもし?」
気だるげに髪をかき上げて電話に出る彼を見ながら、私は胸をなでおろす。
あ、危なかった……。もう少しで「あ~れ~」を実演するところだった……。
とりあえずはホッとしたけれど、また迫られたら困るからと、彼が電話をしている間に乱れた浴衣をきちっと着直した。
「ちょっと待ってください。フィアンセに許可をもらわないと」
ん? フィアンセって、私のこと……?
「美琴ちゃん」
「は、はい」
スマホを耳から離した彼が、私に尋ねる。
「俺がほかの女性とふたりで食事するとか、許せるほう?」
「え……」
藍澤先生が、他の女性と食事? 頭の中でそのシーンを想像してみると、なんだか胸がもやっとした。
けど、“いやだ”なんて言ったら、あからさまに嫉妬しているみたいで恥ずかしい。そもそも私たち、正式な婚約者同士とは言えないような関係だし……。