眠らせ森の恋
 



「……お、俺が殺されるかと思った」

 ようやくつぐみから解放された西和田が言う。

 だが、
「お前がスパイになれよ」
と言う西和田に、スパイのはずなのに、あっさり白状させられた。

「なんだ。
 社長にキスされたから落ち着かないとか。

 意外と簡単な女だな。

 っていうか、その年で初めて、というか。
 一緒に暮らしてるのに、初めて、というのにビックリしたぞ」

 今、殺されそうになったはずの西和田は腕を組み、偉そうに言ってくる。

「いや、キスなんて……。
 ちょっと触れたくらいで、逃げてしまったので」
と赤くなりながら言うと、西和田はいきなり立ち上がる。

「くだらない話だ。
 時間の無駄だったな」

「あっ、自分の仕事に関係ないと思うと、相談にも乗ってくれずに投げ捨てるなんてっ」
と立ち上がると、西和田は、パイプ椅子に手をかけた体勢のまま、

「どう相談に乗れというんだ」
と切って捨てるように言ってくる。
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