眠らせ森の恋
 



「今日、奢らせてくださいっ」
と言いながら、英里に抱きついているつぐみを見ながら、西和田は、なにやってんだ、と思っていた。

 だいたい、幾ら西和田さんでもってなんだ?

 スパイに腹を割るな、おかしな奴だ。

 そう思ったとき、社長が入ってきた。

 いつのものような愛想の良い作り笑いがなんだかすぐには出なかった。

 あの重箱弁当を思い出していたからかもしれない。

 普段は給食なので、運動会やたまの遠足などのとき、子どもの好きなものを詰め込みすぎて、作りすぎると言っていた姉の言葉を思い出す。

 愛情がたっぷり過ぎて、重箱にまでなっていたつぐみの作ったあの弁当。

 ……まあ、何故、あんな山盛り弁当になってしまったのか、本人たちは気づいていないようだから、黙っていよう、と思いながら、西和田は社長に軽く会釈し、仕事に戻った。




< 236 / 381 >

この作品をシェア

pagetop