眠らせ森の恋





 まだセーターを編んでいる。

 靴下で終わりじゃなかったのか……。

 誰のなんだ、つぐみ、と家に帰った奏汰は、リビングの入り口から、自分の帰宅にも気づかず、ソファで編み物に没頭しているつぐみを見ていた。

 誰に編んでるんだ。

 明らかに男物だが。

 俺は靴下で、そいつはセーターかっ、と思っていると、立ち尽くしている自分に気づいたつぐみが、

「あっ、すみませんっ。奏汰さん」
と言ってきた。

「すぐご飯にしますね。
 今日は、たまごふわふわです」

「……なんだって?」

「たまごふわふわです」

「それ、江戸時代の料理だよな」

 沸騰した出汁にメレンゲを流し込んで作る、ふわふわとした食感の江戸時代から続く玉子料理だ。

 近藤勇も好きだったという。
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