眠らせ森の恋
 



「着いたか、秋名」
 玄関前に車が横付けになると、すぐさま、西和田が出て来た。

 待ってくれていたらしい。

 さすが、いいスパイだ、と思う。

「すみません。
 熱が下がり切らなくて」
と言うつぐみを後ろから奏汰が押す。

「早く降りろ、邪魔だ」
 いたっ、と頭を小突かれるように押されて、つぐみは振り返る。

「ひとりで立てないのに、ごちゃごちゃ言わないでください。

 私が手を貸すと問題がありますので、西和田さん、松本部長。

 社長をさりげなく、両端から挟んでください。
 フラフラしてますから」
と言うと、急いで降りた松本が、はいっ、と言う。

 いや、人事部長に、あらたまられると困ってしまうのだが、と思っている横で、

「社長、立てますか?」
とスパイがやさしく訊いている。





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