(完)最後の君に、輝く色を
「絶対、手術成功したら、お前の行きたいとかどこにでも連れてってやるからな」



「ああ」


俺の手を握りしめて離さない兄貴に苦笑いを浮かべてしまう。



「行きましょうか」



看護師にそう言われて、兄貴がそっと手を離した。



「はい」



力強く頷き、自らストレッチャーに体を乗せた。



二人の看護師に押され、兄貴と父さんが側についた状態で手術室に移動する。



何も怖くない。



「飛鳥!」



足元の方から騒がしいスリッパの音と、俺を呼ぶ声が聞こえた。



これはたぶん、



「飛鳥!すみません、少し待ってください!」



俺の顔を見下すのはやっぱり予想通り母さんだった。



母さんは必死で看護師たちに頭を下げて、俺の前に一枚の雑誌を広げてみせた。




『ここから、始まり』



『話題の天才美少女!徹底取材!
有名人たちが絶賛する絵を描いたのは1人の女子中学生だった!』




それらの大きな見出しとともに、掲載されているのはよく知ったあの顔。



そして、その隣のページには結局一度も見せてもらえなかったあの絵が堂々と乗せられていた。



「これ夏実ちゃん?」


兄貴の戸惑った声、


「京子ちゃんから頼まれたの。これ見せてくれって」



荒い息を整えながら話す母さん、



「見事な絵だな…。ん?この絵の少年は…飛鳥か?」



父さんの不思議そうな言葉、




どれにも答えることができなかった。


< 111 / 124 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop