過保護な御曹司とスイートライフ


初めての恋を自覚して、しかもその相手から好きだと告げられ浮かれないひとはいないと思う。

成宮さんの気持ちに応えたわけではないけれど、私にとっては好きだと言われただけでとても嬉しくて気付けば口の端が持ち上がろうとするから、抑えるのが大変だ。

豊かになろうとする表情を抑え込むなんて、初めてのことかもしれない。
いつもは逆ばかりだから。

両頬にそれぞれ手で触れ、軽くぐりぐりとしながら唇をキュッと結ぶ。

私の人生でこんなことが起きるなんて思っていなかったし、こんなにも自分の心が浮かれられるものだとも知らなかったから驚いていた。


「あららー? なんだかご機嫌?」

十五時の受付。隣の席から顔を覗きこんでくる矢田さんにビクッと肩を揺らす。

ぬっと突然視界に入り込んできた矢田さんに驚きながらも、「いえ。そうでもないです」と平静を装って返す。

今日の来訪予定は全部済んだ。
あとは、それぞれまだ使用中の会議室や応接室の片づけをしたり、飛び込み営業の相手をするくらいだ。

「まぁでも、副社長と同棲なんかしてたらご機嫌にもなるわよね。私だったら毎日ニヤけてお客様から〝気持ち悪い〟ってクレーム入る自信がある」

パソコンで第一会議室の予約者を確認していた矢田さんが「うわー、棚田さんだし」と顔を歪める。

「あの人、会議終わってもダラダラといつまでも会議室にいるのよねぇ。だから、顔合わせたくなくて片付け指示が入ってもしばらく行かなかったら『たいした仕事もないくせに遅ぇんだよ』って舌打ちされたしね。私が!」

「あの人、仕事ないんですかね」

そんなに会議室でダラダラしている暇があるなんて、棚田さんの方がたいした仕事任されてないんじゃないんだろうか。



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