過保護な御曹司とスイートライフ


『彩月はなにも不安に思わなくていい。……大丈夫。俺が守るから』

いつか、辰巳さんが言っていたことだ。
それ以外にも、辰巳さんはたまに漠然とした言葉を私にかけていた。

〝守る〟とか〝不安にならなくていい〟とか……あれはいったい、何に対してってことだったんだろう。

辰巳さんは、なにから私を守ってくれていたんだろう。
一緒にいるときには気付かなかった疑問が、離れて初めて見えてきていた。



「久しぶりねぇ。彩月がひとりで帰ってくるなんて、家を出てから初めてじゃない?」

土曜日、実家に戻るとお母さんが迎えてくれた。
お父さんは仕事の付き合いで朝からゴルフにでかけたらしい。辰巳さんのお父さんも一緒だってことだった。

ローテーブルを挟んだ向かいのソファに座ったお母さんが、入れたての紅茶に手を伸ばす。
白いカップからは湯気が立っていた。

ひとりで帰ってくるのはお母さんの言う通り、家を出てから初めてだけど、辰巳さんと一緒になら年に何度か来ていたから、そこまでの懐かしさは感じない。

でも……今日は不思議な違和感があった。

この家の雰囲気って、こんなにも乾いていたっけ……?と疑問を抱いてしまうくらいに、流れる空気が冷たい。

だけど、思い返してみればいつもこんな感じだったし、私が成宮さんの作るあたたかい雰囲気に慣れてしまったからなんだろう。

この家以外の空気を知らなかったから、今までは疑問に感じてこなかったけれど……お世辞にも家庭的とかそういう言葉が似合うような感じではないなと思う。




< 134 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop