ロング・バケーション
「お待たせしました。どうぞ」


ローテーブルの上に置かれた鍋を見つめ、彼が考えていることが頭に浮かぶ。


「言っておきますけど、また寄せ鍋ではないですからね」


ぱかっと蓋を取ると籠っていた湯気が煙の様に天井へと向かって沸き上がる。
その煙たさが消えた中に見えているものは、自分でも美味しそうだと思える様な感じで__。


「旨そう」


彼の声にふふん、と鼻を鳴らしそうだ。
然し乍ら、たかが雑炊ごときに偉そうにもできないと思い、取り皿の中によそって手渡した。


「召し上がれ。良ければたくあんもどうぞ」


コンビニで買ったものだと言わずに出したが、彼はクッと笑いを含んで。


「さっき袋の中に入ってたやつね」


気付いていたのか。まあ匂いもする訳だし当然か。


バレましたか、と言うと分かるよと一言返されてくる。
その後、ドクターは雑炊を口に入れ、感心した様に「旨い!」と声を上げた。


「そんなに大袈裟に褒められる様なものじゃないから」


それでも自分なりには美味しいと感じる。
外が冷えきっていたからせめて内臓くらいは温めたいと思って正解だった。


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