ロング・バケーション
「矢神さんがどうかしたんですか?」


問い直すとドクターはすね肉を頬張りながら__


「…うん、結婚するんだって」


別れたばかりの旦那さんと…と言う言葉に、えっ!?と悦びに近い声が出た。


「娘さんの入院以来、お互いの存在が急に有難く思えるようになったんだって」


彼はそう話すと、娘さんの病状について教えてくれた。

それによると、あれからワンクールの投薬で熱は無事に下がり、今は一般病室に移って再発防止の為の治療を受けているそうだ。


「矢神さんの話では、別れた旦那さんが毎日心配して病院まで通って来たって。一緒に住んでいた頃は留守がちで、自分と子供だけにされる日々だったのに…と言ってた」


「先生…それは…」


まさか、と嫌な予感か走る。
彼はうん…と呟き、家族を裏切ってたのかもしれないね…と推測した。


「そうなんですか…」


やっぱり…と思いながらも気が沈む。
何かを無くすのが厄年みたいな言い方をしていた国村主任の言葉を思い出して、ふぅ…と小さく息を吐いた。


「でも、また再婚されるのなら良かった。やっぱり子供は鎹だよな」


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