ロング・バケーション
それにしては長かった怒りを思い出しながら、彼の隣で自分も息を吐く。
今なら何処へ行くのかを聞いても許されるかな、と思いだした時___


「昼間…」


短い声が聞こえてハッと彼を見返した。
真っ直ぐと前に注がれている視線が一瞬だけこっちを見てくれた。


きゅん…と胸が鳴って狭まる。
目配せだけで胸が鳴るなんてどうかしている。


「凛さんに見られた場面だけど、実はあの前にいろいろとあって」


言葉を区切りながら話すのは、言い訳を考えているからなのだろうか。それとも、単純に言い出し難いせいなのか。


「君は……矢神さんが離婚したのを聞いてるだろ?」


唐突な質問に、はい…首を縦に振る。
ドクターはそれを確かめ、少しの間を空けて続けた。


「じゃあ、彼女に子供がいるのは知ってる?」


全く聞いたこともない情報に、いいえ…と首を横に振る。
さっきまでの気まずい雰囲気は少し消え、話しやすい空気が漂い始めていた。


「今日の昼前、その子が救急車で運ばれてきたんだ。高熱を出していると救急隊員からの知らせを受けてたんだけど……」


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