ロング・バケーション
「……もういいんです。一先ずは済んでしまったことなので」


スルーしてしまおうとしたら、不満そうに無言になる。
気まずい雰囲気に変わる車内で、私は横目を流しながら彼の方を見てみた。


ドクターは特別怒った様な表情も見せずに淡々と運転をしている。
夕方のラッシュ時で前だけを見つめて集中しているように感じたのだけれど……。



「君はさ」


ふと唇を開いてそう言った。
その声が少し機嫌が悪いように耳に入った。


「都合が良くないと本当にそうやってスルーしてしまうんだな」


低めな声にビクッとして、思わず彼の横顔を凝視した。

真っ直ぐと前を見ているドクターの端正な横顔を見ていると彼の唇が動いた。


「そういうの、良くないと思う」


キッパリと言い切られ、ハッとしつつも返す言葉が見つからずにシュンとする。


「話したくないならハッキリそう言ってくれてもいいんだ。でも、スルーされると腹が立つ」


語尾を強める言い方に、彼が本気で怒っていると感じた。

特別悪いことをした訳でもないが、普段優しい言い方を耳にしているだけに堪える＿＿。


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