美意識革命
 家に着いてドアを閉め、鍵を掛けた。とりあえず汗を流してすぐ布団にでも入ってしまえば今日のところは何とかなるだろう。とにかく今日はもう何もしたくない。森にあんな顔をさせるつもりもなかったし、森に気付かれることもないと踏んでいたのに。
 頭から熱いシャワーを浴びて、汗と疲れを流してしまうことにする。お湯につかりたい気持ちもなくはなかったが、今日はそれよりも横になって目を瞑ってしまいたい気がした。

 シャワーを終え、髪を乱暴にタオルで拭きながらリビングに戻って座椅子に座った。頭痛薬を飲んでから寝ることにしようと思い、蛇口を捻ったその時だった。

 ピンポーン

 普段、あまり鳴らないはずのチャイムが鳴った。

「え、も、森さん?」

 画面を確認して、変な声が出た。慌ててドアに駆け寄り、ドアを開けた。

「な…なんで…。」
「具合悪そうだったので。」
「ってすみません、私お風呂出たばっかりで…!」
「い、いえ、こちらこそすみません!そんな時に!これだけ渡そうと思って。」

 ビニール袋にはスポーツドリンクとゼリーが入っている。

「す…すみませんいつも…もらってばかりで。…っ…。」

 目の前がぐらついた。壁につきたいはずの手が間に合わない。

「…大丈夫、ですか?」
「っ…。す、す…すみません!」

 森の片腕にダイブしてしまったようだ。今までかなりの醜態を晒してきたが、これはおそらく最上級だ。

「僕は大丈夫ですよ。九条さんの方こそ、熱ありますかね、もしかして。」
「…いや、あの…この時期特有の頭痛なだけなんで…。今日はちょっとひどいですけど。」
「じゃあ本当に早く休んでください。また何か持ってきますね。」
「いやあの…大丈夫です、本当に。風邪でも何でもないんで。」
「僕がそうしたいので。じゃあ、おやすみなさい。」

 森は言うだけ言って、ゆっくりとドアを閉めた。
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