美意識革命
― ― ― ― ―

 目が覚めたのは由梨の方が早かったようだ。がっちりと回ったままの腕を見やる。

(…ずっと抱きしめられてたんだ…。)

 目の前にある、30歳とは思えないあどけない寝顔にそっと手を伸ばす。

「…ゆ…り…さん?」
「っ…!」

 伸ばした手が捕まった。

「おはよ…。」
「おはよう…ございます…。」
「手、ちっちゃいね…由梨さん。」

 そのまま手を自分の頬につける森。寝ぼけているのか、確信犯なのか。

「由梨さんから触ってくれたのが嬉しい。…最高の誕生日。もうすでに…。」

 腕に力が入って、由梨は抜け出せない。

「も、森さん!ご飯!朝ご飯食べないと!」
「まだいい~!もうちょっと由梨さんを堪能する~!」
「は、はなし…。」
「離しちゃって、いいの?」
「うっ…。」

 確信犯だ。しかし、それに逆らえないのは由梨が悪い。

「素直な由梨さん、ものすごく可愛い。好き。」

 額に乗ったキス。森は唇まで優しいことは、ようやく知れたことだ。

「わ、私に今日の誕生日のおもてなしを頑張らせる気、ないですね…?」
「由梨さん、もうたくさん頑張ってくれたでしょ。気持ちを伝えるのって楽じゃないってわかるから。それでも頑張ってくれた。本当に充分。これ以上もらったらもらいすぎ。」
「…そんなこと、ないです。私は待たせた分も返したいです。」
「…じゃあ、由梨さんからキスして?」
「へっ!?」

 有り得ない方向からのお願いが飛んできた。

「待たせた分返したいんでしょ?はい、目は瞑ってるから!」

 本当に目を瞑る森。由梨はゆっくりと顔を近付け、唇を重ねた。ほんの一瞬だけ。

「…ありがと。」

 森が由梨の頭を撫でる。由梨の方といえば、布団の中にもぐりこむしか逃げ場がない。
< 49 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop