校舎内鬼ごっこ
「沙紀 (サキ) !起きてるの?遅刻するわよ!」


開いたドアの前で仁王立ちで立つのは、まぎれもなく私の母だ。

怒られる事を覚悟して母の顔を恐る恐る見ると、案の定その表情は怒りで険しくなっていたが、私の顔を見た瞬間、みるみるうちに心配の色に変わっていった。


「なんだ、起きてたの。……どうしたの?すごく顔色が悪いわよ?体調でも悪いの?」

そう言われ、初めて自分がとても酷い顔をしている事に気付く。


「大丈夫だよ…おはよう。もうこんな時間か、久しぶりに寝坊しちゃった」

ハハッと笑いながら何でもないように言うが、母の顔は一向に明るくならない。

「大丈夫ならいいけど…あんたのそんな顔見たことないからね。朝ご飯あるから、少しでもいいからちゃんと食べなさいよ」

そう言い終わると、一階に降りて行った。


ハァ…と溜め息をつき、先程母に言われた「酷い顔」を見るため、のろのろとベッドから降り、部屋に置いてある全身鏡を覗く。


なるほど…確かに「酷い顔」だ。


目の下の隈が酷く、前髪は汗でべったりと額にくっつき、血の気が引いた顔を見て、私は思わず苦笑いをした。
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