幸せを探して
その理由を察した斎藤君は、後ろめたそうな顔になった。


「あ、ごめん…」


まるで腫れ物を扱う様に謝る斎藤君を見て陸人は薄笑いを浮かべたけれど、すぐに真顔になった。


「…お前に、“忘れない”って事の苦しさは、一生分かんねえよ」


陸人が、何かを抑え殺したような低い声を出す。



一瞬で、教室の空気がドンと重くなった。


それは、他のクラスメイトの動きを止める程。


斎藤君は驚いた様に陸人を見るけれど、陸人はそれに無反応で話し続ける。


「だって、考えてみろよ?…誰だって、忘れたい事の1つや2つあるのに、俺は忘れられないんだよ…」


まるで苦虫を噛み潰したような顔をしながら、陸人は斎藤君の目を見据える。


「ふとした拍子に思い出すんだ。…思い出したら苦しくなるような、辛くなるような過去も、鮮明に蘇るんだよ」



それが、1年前の、私と美花の事故の事を指していると、私にはすぐに分かった。


何故なら、陸人の目が潤みかけていたから。


「っ…本当にごめん…」


「…何でも“覚えられる”って、斎藤が思っている程楽な事じゃないから」


1つ1つにとげがある陸人の言葉は、斎藤君を固まらせる。


「嬉しくも無いし…だからさ、簡単に言うのやめてくれない?」


どんどん教室内が不穏な空気に包まれていく。


私は何故か、その2人から目が離せなかった。
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