幸せを探して
「待って、斎藤君!」


斎藤君は、ん?と振り返る。


「今日、ありがとう」


「何が…?」


「放課後、私に言ってくれたよね。『笑ってないよ』って」


斎藤君はすまなさそうな顔になる。


「ごめん…」


「ううん、謝らないで」


私は笑顔を作る。


「私、初めて本音を言えて凄く嬉しかった。…全部斎藤君のおかげだよ。ありがとう」


斎藤君ははっとした表情になる。


「それから…斎藤君は要らなくなんて無いからね」


今日、耳にたこができるほど言い続けてきた。


けれど、お世辞に思っていると嫌だから。


「斎藤君、本当にありがとう。…私、あの日以来初めて笑えたんだ」


その証拠になるように、私は自然な笑顔を見せる。


その途端、斎藤君の顔がほころんだ。


「うん、本当だ…さっきと違うよ」


私は笑い返す。



「…転入初日、俺保健室に行っただろ?」


斎藤君が急に違う話題を持ち出し、私は驚きながらも頷く。


「あの日中村先生に、『寝ている女子は何で泣いてたんですか?その人は誰なんですか?』って聞いてみたらさ」


斎藤君は意味ありげに笑う。


「『今度会った時に、その子の心を開く鍵になってあげて』って言われたんだ」


「っ…!」


私は思わず後退りをする。
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