幸せを探して
「帰ってるんだけど…?」


私に当たり前の事を聞かれて、斎藤君はあからさまに困惑顔になった。


「あっ、そっか…」


なんて馬鹿な質問をしてしまったんだろう、と後悔する。


「ごめんねっ!…っ、また明日!」


恥ずかしさから赤くなった顔を斎藤君から背け、私は逃げるようにして遠ざかろうとする。



「…待って!」


背後から、斎藤君の呼び止める声が響く。


「ん?」


私は振り返り、斎藤君の目を見据えた。


その目は、しきりに左右へ動いていて。


勉強の質問だろうか。


(私の苦手な教科だったら、上手く教えられるかな…?)


なんて事を考えていると、不意に斎藤君が口を開いた。


「あのさ…」


「ずっと言おうか、迷ってたんだけど…」


「…うん」


斎藤君は、ためらいがちに口を開く。


「…雪は、好き?」


あまりにも唐突な質問に、私は戸惑いながらも答える。


「うん、好きだけど…?」


見たら苦しくなるけれど、雪自体は好きだ。


何でそんなことを聞くんだろう。


「じゃあ何で、雪見たら保健室に行くの?」


とたんに私の顔の筋肉はこわばった。


(聞かないで、気づかないで)


「別に、雪を見たからじゃないよ」


嘘。


しばしの沈黙が私と斎藤君の中で流れる。
< 90 / 248 >

この作品をシェア

pagetop