別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
初瀬先生はホワイトボードに殴り書きをしながら熱弁を始める。

この教授の試験はとても難しくて、いつも恵理たちと愚痴っていた。

秋が当時の試験問題を取っておいたから、それを借りてなんとか試験を乗り切った記憶がある。

退屈過ぎて、先生が背を向けて殴り書きをしている間に5分ほどで講義室を抜け出た。

「初瀬先生、変わらないね」

「ホント、意味不明なままだな。
あの人天才肌ってやつなのかな」

呆れ気味に笑いつつも、秋は楽しそうだ。

教授や講義の話をしながら、学食のある第3棟を目指して進んだ。

秋との待ち合わせ場所によく使っていたところだ。

学食は1階にひとつ、2階にひとつ。

3階は広いラウンジになっていて、次の講義まで時間が空いた学生たちの憩いの場だった。

秋はいつも隅の椅子が指定席で、トートバッグにたくさんの本をつめ、私のほうが遅い時はいつもそれを読んで待っていた。

その横顔を見るのが好きで、わざと少し遅れて行って盗み見たりしていた。

合コンのときもそうだったけど、秋は隅っこが落ち着くらしい。

学内で『隅っこの王子』と呼ばれているのだと噂で聞いたことがあって、笑ってしまった。

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