別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
隣同士で壁に寄りかかっていても、何か話題を振るでも愛想よく笑うでもない。

ただ何の面白味もないガラスドアの外を眺めている。

不思議と沈黙は気にならず、むしろ黙っているほうが心地いい気さえした。

しばらくして彼が軽くこちらに顔を向け、静かに問いかけた。

「合コン、苦手でしょ」

「初めてきたんですけど、なんだか場違いみたいな気がしちゃって。
…バレてましたか?」

「いや、なんとなく俺と似てるのかなって。
付き合いで何回か来たことあるけど、いつも居心地が悪い感じになる」

沈黙は気にならないのに、話したら話したでそれも不思議としっくりくる。

そして彼のほうもそう思っているというのが、なんとなく伝わってきた。

似たタイプだから落ち着くというか、波長が合うのかもしれない。

カラオケの部屋にいる時からこの人に対して感じていた何かが、この時はまだよくわからなかった。

ただ、顔ではない何かに惹かれていたのは確かだった。

それが『声』だということに気づいたのは、知り合って何日もあとのことだったけど。

カラオケの部屋に戻る途中。

「…あの、ごめんなさい。名前、なんでしたっけ」

「秋。こっちもごめん。名前、なんでしたっけ」

「加奈です」


始まりは些細なことだった。

真夏に付き合い始めた私たちは、5年間、静かに日々を積み重ねていった。


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