別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
―― ピピピピ ピピピピ

アラームが鳴りだし、秋はもぞもぞと動きながらスマホに手を伸ばして画面をタッチした。

「…おはよう加奈」

「おはよ、秋」

寝ぼけ眼でそう言いながらも抱きしめた腕を離す様子はなく、むしろ力が増す。

このまま目をつむったら確実に二度寝してしまう。

「秋、起きなくちゃ」

「ん、わかってる」

大人の男の人の声なのに、言葉の端に時々混じる少年のような幼い響き。

秋の声が好きだ。

直線的なきりっとした眉。くっきり二重瞼のアーモンドアイ。整った鼻筋に薄い唇。

秋はその端正な顔立ちで大学時代から有名人だったけど、それは私にとっては全くもって重要なことではなくて、初めて会った時の声のほうが気になっていた。

自分が声フェチなのかもしれないというのは大きな発見だった。

秋は私の額に口づけを落とし、大きく息を吐きながら起き上がる。

「先に洗面台使うよ。そのあとパン焼いとくから」

「うん、ありがと」

ハンガーにかけてあったワイシャツを羽織り、秋は一足先に寝室を出る。


< 3 / 179 >

この作品をシェア

pagetop