別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
「…そしてここからは秋の知らない話だ。
秋には、来春専務になるタイミングで私の決めた相手と結婚してもらう」

思考が一瞬止まった。

『結婚』?秋が?

「12月に婚約をする予定でいる。
だが、君がいると秋は断固拒否するだろう。
ここに君を呼び出した理由、わかるね?」

あまりにも内容が衝撃的すぎて、『わかるね?』と言われて頷けるわけがない。

しばらく沈黙していたら、社長はじれったそうに顔を歪め、言い方を変えた。

「ある程度婚約者の選定は進んでいる。
秋が婚約する前に別れてほしい」

抑揚のない声で、率直な言葉が放たれる。

そうだ。単純なことだ。

『秋はほかの女性と結婚するから私が邪魔だ』ということだ。

絶望というのはこういうことを言うんだろう。

彼の父親に『別れろ』と言われたら、もう成す術もない。

全く考えたことがないわけじゃない。

ドラマや小説であるように、秋は『政略結婚』をすることになったりしないのかな、と不安に思ったことはある。

秋はそのたびに『そんなのはあり得ない』と笑って否定してくれていた。

それなのに、秋本人に内緒で、水面下でこんな話が進んでいるなんて思いもしなかった。

「…わかりました」

この答え以外に、私に選択肢は与えられていなかった。

社長は忙しいのかそれとも要件を言い終わったからもう話す必要もないのか、晴くんに目で合図を送り、私は晴くんに促されるまま社長室を後にした。


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