《クールな彼は欲しがり屋》
本日は春のような暖かさでしょう
自宅まで送ると言い張られ、私は沢田課長とタクシーに乗った。

「タクシーで悪いな」

「いえ、とんでもないです。別に送ってもらうような時間でもないのに....」


タクシーの後部座席でも私の手は沢田課長に握られていた。
なれないせいか、かなり居心地が悪い。

おしりを動かしたり、指を開いたり閉じたりしていると
「落ち着きがないな。少し動かないでいられないのか」
と、嫌な顔をされた。

「わかってます。わかってるんですけど」

「まったく」
ため息まじりに言って沢田課長は、私の手を離した。

あれ、素直に離すんだ。
私は解放された手を膝の上に置いて窓の外を眺めた。


街灯の明かりが近づいては流れ、飛んで行く。繰り返される夜の景色。

「24日の夜は、予定空けとけ」
唐突に、しかもぶっきらぼうな口調で沢田課長は言った。


「はあ、取引先と会食か何かですか?」

沢田課長は、私の方へ顔を向けた。睨むように私を見てくる。

「な、なんですか。その目」


「24日だぞ」


「は?それは聞きましたよ」


「クリスマスイブだ。空けとけ」
ため息まじりに沢田課長は言って前に向いた。

あー、クリスマスイブか。
彼氏もいないから、すっかり忘れてた。

「あ、はぁ」
なんて返事するべきだろう。
無理やりにカップルみたいにされた上に、クリスマスだからと約束を取り付けられてもリアクションに困る。

ここは、本当のカップルみたいに喜ぶべきなんだろうか。

「カップルなら夕食を共にして、プレゼントを交換し朝まで一緒に過ごすべきだろう?」

「あ!朝まで?!」
驚いて声が高くなってしまった。

タクシーの運転手を気にして、私は慌てて口を押さえて身を出きるだけ小さくした。


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