彼の甘い包囲網
「え?
楓ちゃん、もしかしてビール飲んだことない?
お酒飲めない人?」

「ううん。
有名メーカーの一般的なビールは飲んだことあるよ。
でも苦いような……」

「あー、成程。
そういえば、今まで楓ちゃんがビール飲んでる姿、見たことないかも。
じゃ、これとか、楓ちゃんにはいいんじゃないかな。
飲んでみて!」

鈴ちゃんが先刻まで飲んでいた、グラスに入ったビールを薦めてくれた。

「……あ、そんなに苦くない」

「でしょ!」

嬉しそうな笑顔の鈴ちゃん。

それからも、鈴ちゃんがお薦めのお酒を少しずつもらっていたら、いつのまにやら私の頭の中がフワフワし出した。


「ちょっと鈴!
飲ませすぎじゃない?」

「大丈夫だよぅぅ~フフッ」

「え、あれ、楓ちゃん!
もしかして酔っ払っちゃった?
嘘!
こんなに弱かったの?」

「……楓ちゃん、普段あんまり飲まないから加減わからなかったのかもね……」

「すぅずちゃぁん!
まだ飲みたぁぁい!」

「……うわぁ、やばいね……」

遠くの方で皆が何やら話している声が聞こえていた。

だけど私は何だか身体がユラユラ揺れて気持ちいいし、皆に話ができて嬉しくて、何よりも眠たくて目蓋をあけることができなくなっていた。


「……楓」


夢の世界に旅立つ前に奏多の声を聞いた気がした。
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