彼の甘い包囲網
瞼の向こう側が眩しくて思わず目を開けた。

優しい木目調のブラインドの隙間から光が漏れている。

頬にあたる柔らかな焦げ茶色のシーツの感触。



……あれ?

焦げ茶色?

そんな色のシーツ、持っていない。

それに、さっきから髪を誰かに撫でられている気がする。

そういえば、私の部屋にブラインドなんてない。

そこまで考えてバチッと目が開いた。



「ここ、何処……私」

ガラガラした声。

朦朧とする頭の中を整理するように声を出す。

喉がカラカラに乾いていた。


「おはよ、酔っぱらいのお姫様」

「酔っぱらい……?
どおりで頭が重いし、痛い……」

「飲み過ぎ」


ん?

今の声……。


「楓」

明るい声が私の頭上から降り注いだ。

その声に嫌というほど聞き覚えがある私は、ギギ、と音が鳴りそうな位にぎこちない動きで声の主を見上げた。

「起きたか?」

私の髪を一筋指に絡ませて。

寝起きでも翳ることがない完璧な容貌の奏多がニッコリと微笑んでいた。

寝起きのせいか、少し掠れ気味の声。

キングサイズのベッドの私の隣で、上半身を起こしている。

胸元が広く開いたカットソーを着ているせいもあって、いつもの何倍も色気が漂っている。

空いた手で乱れた前髪をかき揚げるその仕草さえ色っぽい。


「か、か、奏多……っ?!
な、何で!
べ、ベッド!
え、ウソッ!」


濃い紅茶色の瞳が細く眇められて。

私の瞳をガッチリ覗き込む。


「俺のお姫様は寝起きも可愛いな」


微笑んだ奏多は。

そのまま私の唇を塞いだ。

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