彼の甘い包囲網
「言ってないでしょ?
少なくとも蜂谷さんには。
振り回されて戸惑うって気持ちはわかるの。
でも……嫌がってないよね、楓?
レポートみてもらうことも二人で出掛けることも。
今回の婚姻届も」

紗也はジッと真剣な眼差しで私を見つめた。

「……蜂谷さんが留学していたときの楓は、無理に元気に過ごしているみたいだった。
辛そうだったし、寂しそうだったよ。
今とは全然違う」


紗也に言われて。

思い出す。


奏多が留学して、傍にいなくなって。

私の日常は途端につまらなくなっていった。


いるわけない、と思いながらも。

無意識に奏多の姿を探していた。


どうして私には直接連絡をくれないの、と苛立っていた。

四年で戻る、と言われた。

四年がそんなに長い時間だと思わなかった。


高校生活は、青春は、あっという間。

立ち止まっている暇なんてないって散々色々な人から聞いたのに。


気がつけば、あとどれくらいの時間が過ぎれば奏多が帰ってくるのかと考えている自分がいた。

だけど、そんなことを思う自分の気持ちがわからなくて、そんなグチャグチャな自分を誰かに悟られたくなくて。

必死で張り続けていた虚勢を気付かれていたとは思わなかった。

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