彼の甘い包囲網
私は痛む胸と冷静さを訴える思考を抱えながら、奏多を見上げた。

間近で見ても何の非も感じられない秀麗な顔立ちは切な気に歪んでいる。

まるで懇願するかのように。

私はその瞳を真っ直ぐに見返す。



「……奏多、ごめん。
奏多が私を大事にしてくれていることはよくわかってるつもりだし、すごく嬉しい。
でも、私、今の私のままじゃ奏多の隣りには並べない。
奏多みたいに自分の気持ちが揺るがないっていう自信がない。
それじゃダメだと思う。
きっと私は自分のことも奏多のこともいつか嫌いになってしまう。
自分と奏多への気持ちに自信をもって、奏多に向き合いたい」


申し訳ないと思う。

呆れられること間違いなしの上から目線の発言だ。

今、この場で婚姻届をさっさと書いて奏多の懐に飛び込めばきっとずっと大事にして貰えるだろうと思う。


だけど。

頑固な私の本心がそれではダメだと頑なに告げている。

その場かぎりの幸せしか得られない決断をしたくない。

奏多が大切だ。

他の誰よりも。

だからこそ。

きちんと向き合いたい。
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