放課後○○倶楽部

「和音さんならゴミ捨てに行ったよ」
「……それはちょっと酷いと思うよ、トモ兄ちゃん」

 何事もなく言い切る俺にすかさずツッコミを入れるコハルは少し笑顔を取り戻していたが、意味が分からない律子ちゃんは頭の上にクエスチョンマークをいくつも点灯させていた。


 ……平和が一番だな。


 律子ちゃんの持っているトレイからカップを一つ取って口を付けると、苦味と酸味が効いた珈琲が喉を流れていった。


 暫くして帰ってきた和音さんと一緒に珈琲を飲んでいたが、何やら渋い顔をしている和音さんに誰も声を掛ける事が出来なかった。

 コハルと律子ちゃんはじっと俺の方を見ているが、それは俺に口火を切れという無言の圧力でしょうか?

「和音さん、どうかしたのですか?」
「ん? いや……さっき焼却炉にあの二人を連れて行ったんだが」

 本当にゴミ捨てに行ってきたのか? この人は。

「そこで覆面をした変な連中を見かけたんだが、私の顔を見たら慌てて逃げ出してしまってな」
「……覆面? それはまた、この暑い時期に馬鹿みたいな事を」
「だろ? で、気になったので少しあとをつけてみたが、特訓部の部室近くで見失ってしまってな」

 コハルと律子ちゃんは和音さんの話が分からない様で首を傾げていたが、俺は『特訓部』という言葉に自然と眉が寄っていた。


 ……まさか、ね。


 忘れもしない去年の十月二〇日。

 朝から降り続ける雨に憂鬱な気分を味わっていた生徒達を衝撃が襲った。覆面をした武装集団が突如職員室を占拠して数人の先生を人質に取って立てこもったのである。

 後に『一〇二〇事件』と呼ばれる事になったその事件の首謀者は、度重なる騒動を起こした罪で生徒会によって有害部活指定を受けた特殊戦闘訓練支援部――通称、特訓部――で、職員室を占拠して三日三晩立てこもり、最終的には校舎を爆破して半壊させて終結した。

 その事件で特訓部のほぼ全員が無期停学となり、大半の生徒が自首退学したと聞いている。
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