放課後○○倶楽部
 さて、ここで一つ忘れてはいけない事柄がある。

 それはあの変態部長が疑われている『覗き現場激写されちゃった事件』であり、未解決のままだという事実である。でも、その事件については今のところはどうでもいい見解になっているようで、部長も和音さんも違う事をしている。

 なので、俺も違う事に注目する事にした。

「……律子ちゃん、もう大丈夫なの?」
「はい。昨日はご迷惑をお掛けしました」

 明るく笑みを浮かべてお辞儀をする律子ちゃんは珈琲を淹れたカップを俺の前に置いていた。

 昨日は先に帰ったので和音さんに任せてしまったが、律子ちゃんの身体も心配である。しかし、本人は言葉には出さないが顔には辛そうな部分が見え隠れているので、部室に来たときは声を掛けるのも躊躇ってしまいそうになった。

「それで何があったのか、詳しく教えてくれないかな? 思い出したくないと思うから無理にとは言わないけど、出来れば事の真相を知っておきたいからね」
「……はい」

 テーブルを挟んで向かいに座った律子ちゃんは珈琲カップを持って何かを考えるように視線を巡らせていた。思い出させるのは酷だとは思ったのだが、何があったのかを聞いてみたいという好奇心が勝ってしまった。しかし、やっぱり無理に聞くのはかわいそうかなと思っていると――
「中庭の切り株に女の子が立っていたのです」
 小さく搾り出すような声で律子ちゃんが喋り始めた。

「そう言えば、昨日もそんな事言ってたね」
「はい。真っ白なワンピースを着た一〇歳くらいの女の子が、悲しそうに空を見上げて切り株の上に立っていたんです」

 これはまた如何にも”幽霊ですよ”って感じの服装をしているが、普通の人間があの切り株の上に立つのは不可能に近い。出入り口のない金網と有刺鉄線に囲まれている中に一〇歳くらいの女の子が入るのは現実的に考えてもありえないだろう。

 そうなると考えたくはないが、その女の子が生身の人間以外の存在であると言う事になる。
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