放課後○○倶楽部
第八話:変人にご用心
 人間、諦めが肝心である。

 ピンチのときに使うことわざが色々と浮かんでは消えていく現状で、風前の灯となった俺の命が尽きたら誰が亡骸を拾ってくれるのだろうと考えてしまった。

「部長……諦めましょう」
「い、いやだっ」

 まあ、この人が素直に諦めてくれるはずもないか。

「ですが、この状況は非常にまずいですよ」
「分かってるけど、僕はやってないんだよーっ」

 俺の足元で駄々を捏ねる部長を見捨てて逃げたいが、しっかりとズボンの裾を捕まれていては無理だ。


 ……この人、俺を道連れにする気か。


 現在、三階廊下隅で俺達はむさ苦しい男達に囲まれ、我が人生で生誕以来最大のピンチを迎えている。

 事の発端はこの変態部長が起こした『婦女暴行拉致監禁盗撮未遂らしいと本人が言っている事件』(余計な罪名がくっ付いているが気にしない)が今頃になって全校生徒の間でジワジワと波紋を広げているらしく、放課後になって部室で部長や和音さんと律子ちゃんの淹れてくれたコーヒーを飲んでゆったりと寛いでいたところに、この大人数で大挙して押しかけてきた男子生徒達が『海藤翔を出せ』と大騒ぎ。

 最初は何事かと思ったが、男子生徒達の胸にバラのコサージュを見つけたときに誰の差し金なのかはすぐにわかった。で、部長は我先に逃げ出したのだが、しっかりと俺まで巻き込んで逃げるものだからこんな状況になっているわけで……。

 まったくもって迷惑極まりない話だが、どうしてこういう場面で俺はいつも巻き添えを喰らうのか、一度お祓いをしてもらった方がいいのか知れない。きっと部長みたいな悪霊が団体さんで憑いているに違いない。

「すいません、皆さん。俺から提案がありますので聞いてもらえますか?」

 鼻息荒い男達を落ち着かせようと、俺は片手を上げては口を開いた。

「なんだ、言ってみろ」

 俺を威嚇するように見据え、リーダーらしき男子生徒が話し掛けてきたので――
「あなた方の用があるのは部長ですよね?」
 と、足元で子供より性質の悪いぐずり方をしている部長を指差す。
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