俺様外科医に求婚されました



「…あの」

「よし、わかった。残念だけど今日は諦めるよ」


話すタイミングが悪かったのか、私の声が諒太の声と重なり止まった。


「とりあえず、観覧車乗りに行こうか」

「…はい」


諒太が立ち上がったので、私もベンチから腰を上げる。

すると諒太はすぐに私の手を握り、ゆっくりと歩き出した。


「一周回るのってどれくらいなのかな」

「大きいし、十分とか十五分はあるんじゃないですか?」


話さなきゃいけないのに。
どう切り出していいかわからない。


「じゃあ充分間に合うな。ここから帝国ホテルだと二、三十分あれば着くと思うし」

「…そうですね」

「あ、そういや来週健康診断だけど、看護助手も同じ期間に受ける感じ?」

「同じなんですかね?私は水曜日の十時って聞いてるけど」

「理香子は水曜か。俺は火曜らしい」


と…何気ない会話を続けてるうちに、気付けば私達は観覧車の乗り口までたどり着いてしまっていた。

高さが百十七メートルもあるという大きな観覧車。
聞けばその一周にかかる時間は、正確には十七分だということを乗車前に係員の人が教えてくれた。


「観覧車なんていつぶりだろう。大学の時、富士急で乗った以来かも。理香子は?」

「私もかなり久しぶりですよ」


そんな言葉を交わし、二人で乗り込んだ観覧車。


「最後に乗ったのは男と?」

「うーん…どうですかね?」


言いながら少しふざけたように笑うと、目の前に座る諒太の顔がわかりやすく不機嫌になった。


「友達とですよ」

「女の?」

「はい、四人で。成人式の翌日に乗ったのが最後です」


そう言うと、ふとその頃の記憶が脳裏に浮かんだ。

確か成人式の日、友人達と盛り上がった勢いで、私はその翌日に東京ドームシティに行くことになって。

いろんなアトラクションに乗って叫んだり、友達と写真を撮ったり。ザ、青春!みたいな時間を思い切り楽しんだ。

だけどその数日後…田村さんから連絡がきたことがきっかけで、初めて母の病気のことを知った。


それからというもの、こういう場所に来たり誰かと出かけたりすることは…なくなってしまっていた。



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