俺様外科医に求婚されました



ごめんね、諒太。
ごめんなさい、お母さん。

何度も何度も心の中で繰り返し謝った。

すると再び、握りしめていた携帯が手の中で震えた。


‘‘あと一分だぞー!間に合うか?’’


泣きながら携帯の画面を見つめた。
あと、一分。
いや、きっともう…あと数十秒だ。

走り出したい気持ちを抑え、キュッと唇を噛み締めた私は、
‘‘このまま時間が止まってほしい’’
…そう願いながら、携帯画面に映る時刻をただジッと見ていた。


だけどそんな願いも虚しく、時刻は無情にも、午後九時の約束の時を迎えてしまった。


そして、その直後。
手にしていた携帯がまた震え、私はそこに視線を向けた。


‘‘理香子もついに!初遅刻か!?
でも、遅れてきてもごめんはナシだぞ?’’
遅刻でもなんでも理香子の初めての相手になれるなら、俺としては光栄。いや、むしろ嬉しい。
だから走ったり、急がないでいいから。気をつけて来いよ’’


「…っ……」


読み終えた途端、涙が止まらなくなった。

何が光栄なの?なんで嬉しいとか言うの?
そんなこと言われたら…離れるのがもっともっと辛くなる。


理事長には、諒太とは一切の連絡を断つようにと忠告されていた。

だけど…何も知らない諒太の待ち遠しそうな顔を見ていると、どうしても何も伝えずにサヨナラするのは苦しくて。

震える手で、私は指先を動かしていった。



‘‘連絡が遅くなってすみません。
私は今日、そこには行けません。
今はまだ言えないけど、理由はそのうちちゃんとわかると思います。
最低な女だと思って、私のことは早く忘れてください。
今まで、ありがとうございましたーーー’’


溢れてくる想いを我慢して。
淡々とした言葉を並べた私は、それを諒太に送信した。


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