俺様外科医に求婚されました
「落ち込んだ時は、美味いものを食う」
頭に置かれたままの手が、ぽんっと優しく動く。
「ホスピスで働くのは、精神的にくる。精神にきたら、自ずと肉体にもくるんだ。だから。体力だけはつけておかないと」
「…はい」
「肉か魚、洋食?和食?中華?それともイタリアンがいいか」
おかしな展開だった。
手紙の件はウソだったし、まだどこの科の先生か、名前も知らないような人と二人きりで食事だなんて、考えれば考えるほど変だと思った。
だけどその瞬間、一体何のタイミングなのか。
私のお腹がグゥーッと音を鳴らした。
「ほら、早く決めて。キミの腹の虫が鳴いてる」
「……肉で」
「ん?」
「肉で!お願いします」
少し嫌味っぽくそう言った。なのに、この人は鈍感なのだろうか。
「俺も。ちょうど肉が食いたかったんだよ。ここから歩いて10分くらいのとこに、美味い店があるから」
そう言うと、クスッと笑って私の肩をまた抱き寄せ、そのまま歩き出した。