たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
「この店へは、高校時代からの友人とよく一緒に来るんだ」

メニューを私に手渡してくれながら部長がそう言う。


「そうなんですか」

「綾菜が俺の彼女になったら、その友人にもお前のことを真っ先に紹介したい」

さらっとそんなことを言われ、また胸がきゅぅっと疼く。
友達に紹介、だなんて。私なんかでいいのかな……と思うけど、嬉しい。


「でもその友人、一人でもよくこの店に来てるみたいだから、こうやって喋ってたら案外来るかもな」

なんて話していたその時。
カランコロンとベルの音がして、誰かが店に入ってきたことを告げる。


「いらっしゃ……薫(かおる)君じゃないの! 亮君も来てるわよ!」

今入ってきたお客さんに向かって桜井さんがそう言ったので、私と部長は反射的に振り返る。


「よう、薫。今ちょうどお前の話してたんだ」

「え、そうなのか?」

「綾菜。こいつがちょうど今話してた俺の友人でーー綾菜?」


どうして。

何でここに?

もう一生会うことはないのだろうとすら思っていたのに。


私は、その男性を見つめたまま硬直する。

私の視線を受ける男性は、最初は不思議そうに小さく首を傾げていたけれど、すぐに私に気付いた様だった。


そこで私はようやく口を開くことが出来た。


「どうしてここに……



白川(しらかわ)先生……」



置いてきたばかりの想い出の人が、突然目の前に現れた。

今現在、気になっている人の友人としてーー。
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