手をつないでも、戻れない……
「俺達、喧嘩したんだよな? 何で喧嘩したか覚えているか?」


「ささいな事だったと思うけど……」


「俺が嫉妬深かったからだ…… 美緒は、社会人になったばっかりで、男達がいつも狙っていた。俺は、責任を任される仕事が多くなってきて、逢えない時間が増える事に不安だったんだ。だから、美緒が会社の奴らと遊びに行くって言った時、どうしても嫌で、反対して怒っちまったんだ。小さい男だよな」

 彼は呆れたように、ふっと小さく息をついた。


「そんな事が……」

 今になって分かる、彼の思いに胸が詰まって言葉が出ない。


「なかなか、上手く口に出来なくて大人気なかったと思う。
 だけど、美緒が他の男に抱えられ家に入る姿みた時、どこかで、美緒は俺の事、それほど好きだった訳じゃなかったんじゃないかって思ったんだ」

 彼の、寂しそうな顏に、申し訳ない気持ちで口を開いた。


「多分…… 樹さんに他に好きな人がいるって知って、やけになって飲み過ぎて、家の近い先輩が送ってくれだけだと思う……」


「そんなバカな…… だって、浩平が美緒の同棲相手だって言ったぞ!」

 彼の顔が引きつったのが分かった。



「そんな事ある訳けがないじゃない…… だって……」


 勢いで言おうとした言葉を、慌てて飲み込んだ。


「だって…… なんだよ?」

 彼が、引きつったままの顔をちらりと向けた。


「別に、今更いいわよ……」

 私は彼から目を逸らし、窓に映る遠くに行き交う車のヘッドライトを見つめた。



「いいから言えよ……」

 彼の、少し苛立ちを思わせながらも、どこか思い詰めた表情に、このままはぐらかしても、何も解決しない気がした。


 私は、覚悟を決め、大きく息を吸った。
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