手をつないでも、戻れない……
 どれくらい、私達は黙ったまま、それぞれ自分のコーヒーカップを見つめていたのだろうか……


 どんなに、あの時の事を思い起しても、後悔の言葉を繰り返しても、言うべき事は決まっていると分かっていた。


 そう、十五年という年月が、それを教えてくれていたから……



 私は、冷めたコーヒーに手を伸ばした。

 その気配に、彼が私の方へ目を向けた。



 乾いた口の中に広がった、冷ややかな苦味を合図に私は彼と目を合わせた。


「もう、十五年も前の事ね…… まだ、若かったから、周りの噂に惑わされちゃったのかな? 本当にもう! お兄ちゃん、早とちりなんだから」

 私の、少しおどけて言った言葉に、彼は少しだけ淋しそうに微笑んだ。



「本当に。浩平の奴、昔から早とちりで、俺、結構振り回された事あったわ」

 今度は、彼もおどけて言った。


 これでいいんだ、他に選択肢なんてない。


「そうそう、今でも変わらないわよ。子供達に怒られているわ」


「そっかぁ。 なんか、似た者兄弟だな。美緒だって、男と女間違えるくらいだしさ……」


 私は、横目で彼を睨みながらも、目が合うと、お互いふっと笑った。


 全て終わった事だ。

 笑って済ませる事ができるはず。


「でも、良かった…… 樹さんに裏切られたんじゃなくて」

 私はクスッと肩を竦めた。


「おれも、美緒が俺の事、嫌いになったんじゃなくて良かった」

 彼もふっと笑った。



 誤解が溶けて、彼はスッキリしたのだろうと思った。

 その為に、私と話をしたかったのだろうから……


 でも、私の中では、どうしてあの時……

 そんな、言葉が何度も頭の中を通り過ぎていた。


 しかし、彼に悟られないように、私は笑顔を見せ続けた。
< 21 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop