手をつないでも、戻れない……
先を決めた日
 しかし、甘い時間だけが、私のすべてじゃない。

 仕事になれば厳しい事もまっている。


 自閉症の横井さんの、内科受診支援の前日だ。

 担当の伊藤さんには、普段から横井さんに係わるよう指導しているが、避けているようにしか思えない。

 伊藤さんも五十歳近いヘルパーさんで、私のような年下から、指導されるのが嫌なのは目に見えてわかる。


 伊藤さんに、明日の段取りの説明を始めたのだが……


「道順なんて、どこでも同じでしょ! 何したって、大騒ぎするんだから、こっちの身にもなって欲しいわ!」

 伊藤さんは、説明もろくに聞かず捲し立てた。



 私は大きく息を吸うと、伊藤さんの目を見てゆっくりと落ち着いた口調に変えた。


「横井さんは、決めた通りでないと不安になる事は、ご理解されていますよね?」


「それが何? そうやって、あなたが甘やかすから我儘になるのよ! あなたのせいよ!」

 伊藤さんは聞く耳を持たない。


「我儘で起こるパニックはないんです。すべて周りの環境です。きちんと、初めに説明すれば、納得できる事も沢山あります。普段からの信頼関係がなければ、横井さんも不安なまま、行動しなければなりません。あなは、一度でも横井さんに自ら話かけた事がありますか?」



「…… もう、やってられないわよ!」


 伊藤さんは、声を上げる。


 すると、ガチャリとドアが開き、雅哉が入ってきた。


 なんというタイミングなんだろうか?
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