手をつないでも、戻れない……
 驚いて顔を上げると……


「やっぱり…… 何やっているんだ?」

 呆れたような、少し怒ったような顔がそこにあった。



「一ノ瀬さん…… どうして……」


 私は、震える声をなんとか言葉にした。



「どうしてだろう? この地区の担当だから、偶然だろうけど…… そんな事より、何があった?」


「……」


 私は、こんな姿を誰にも見られたく無い。

 掴まれた手を離そうとした。



 しかし、雅哉の手は緩む事なく、横断歩道を渡らずに、私の腕を掴んで歩き出した。



「ちょっと、どこ行くのよ。離して!」


 私は腕を引っ張るが、雅哉は黙ったまま、町の灯り中を、私を引っ張って歩く。


 いい男が、柄の悪い女の手を無理矢理引っ張る姿は周りの目を引く。

 仕方なく、黙って歩くしかなかった。



 雅哉が足を止めたのは、人通りの少なくなった、小さな公園の前だった。


「何があった?」


 雅哉の声は、さっきより穏やかで、私は涙を堪えて俯くしかなかった。


「あいつとは別れたんじゃなかったのか?」


 私は、ぎゅっと唇を噛みしめた。


「どうして…… どうして、いつもそんな顔いているんだよ?」

 雅哉の切なそうな声が、頭の上で響いたと同時に、腕が離れ私の頭を片手で胸に押し当てた。


「うっ……」


 思わず堪えていた涙が溢れ出してしまった。
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