手をつないでも、戻れない……

「なんて格好しいるんだよ…… あいつの為に悪い女になろうとしたのか?」


 私は、泣きながら首を横に振った。


「違う…… 私は、ズルかっただけ…… 全てを消そうとしたのは私の方なの……」


 泣きじゃくる私の頭を、雅哉は優しく撫でた。


「違うだろ? あいつの為に、必死だったんだろ?」



「でも…… もう、逢えないよ……」


 とうとう、私は、我慢していた言葉を吐き出してしまった。



「どうして、どうして、あいつなんだよ…… 僕だったたら、美緒さんに絶対こんな顔させない!」


 雅哉の手が、私の肩に回り、包み込むように強く抱きしめられた。


「僕にしろよ!」


 雅哉の暖かい胸に、崩れてしまえたら、どんなに楽だろうかと思う。


 でも、こんな状況でも、私の頭の中には彼の姿しかなかった。


 匂いも、暖かさも、私の好きな人のものではない。



 だから、離れなければと思うのに、私の力じゃ雅哉の腕から逃れる事が出来なかった。



「好きだ!」


 雅哉のハッキリした言葉が耳もとで響いた時、私の体がぐっと引っ張られた。
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