僕らのチェリー

はっと目が覚める。

ブーブーとバイブの音。目覚まし時計に設定していた携帯電話の振動で起こされたせいか、頭が朦朧としてなかなか起き上がれない。


「また、あの夢か」


ゆっくりと体を起こして、ドアの手前にある鏡を覗いた。

寝癖だらけのぼさぼさの髪。

よく見ると、目の下に薄いくまができている。


「最悪」


最近、杏奈先生の夢をよく見るようになった。

それも毎晩の確率で同じ内容。

桜の木まで歩き、そばの池を覗けば杏奈先生の姿が映る。

そして、


「彼の時間を返して」


決まってその言葉で目が覚めてしまう。

毎晩毎晩その繰り返しで、ここ数日十分に寝た気がしない。市販の睡眠薬を飲んでも、必ずあの夢を見てしまうのだ。
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