僕らのチェリー

4.傷跡




見ると、生暖かい風で桜の木がゆらゆらと揺れている。

その木は四、五歩、歩いたところで立っていた。

ああ、違った。

揺れていたのはそばにあった池だ。

透き通るような青の水面が太陽の光に反射して、きらきらと輝いている。

澪は腰を下ろし、それを覗いた。

だが水面に映っていたのは澪ではなく、


「ねえ笠原さん。彼の時間を返して」


杏奈先生の泣き顔だった。
< 43 / 173 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop