僕らのチェリー

それからが一ヶ月が立った。

冬休みが終わる頃、彼から杏奈先生と付き合うことになったと聞かされた。

澪は「おめでとう」と言えなかった。

そして二人が付き合うことは、澪だけが知っていた。

大事な秘密を自分だけに打ち明けてくれたその理由を訊くと、彼は「笠原はおれの一番の友達だから」と言った。


「良かったね、先生」


そう言うと、杏奈先生は優しく微笑んだ。


「ありがとう、笠原さん」


太陽の光が差し込む中、人目につかないところで二人はそっと寄り添う。

よく似合ってる、と心から思った。


「先生、おれ卒業したら働くよ」

「どうして?」

「早く先生を幸せにしたいから」

「そう…」

「そんな浮かない顔しておれなんか変なこといった?」

「ううんそうじゃないの。ただ」

「ただ?」

「今でも私十分幸せだよって言いたかったの」


本当に二人はよく似合っていた。

いつかその幸せが消えてしまうなんて、神様がやったことだとしたら神様はなんて意地悪なんだろう。

でもそれを誰よりも望んでいたあたしは、神様よりもっと心が汚いんだろうか。




────────────────────────────────────
< 92 / 173 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop