僕らのチェリー
第三章

1.波乱の幕開け




それはそろそろ夏休みが終わろうとする頃に起こった。

ベッドで横になってうとうとしていると、机の上で携帯電話がけたたましく鳴り響いた。


「澪…」


受話器の向こうで、奈美は何度も澪の名前を呼んでいた。

その声は今にも泣き出しそうで微かに震えていた。

嫌な予感がした。


「どうしたの?」


奈美は名前を呼ぶばかりでなかなか答えようとしない。しばしの沈黙の後に彼女はやっと口を開いた。


「今澪の家の前にいる」


急いで窓を開けて目が暗闇に慣れたとき、電信柱の横でワンピース姿の奈美が座っているのが見えた。

俯いたまま地面をじっと見つめている。


「大丈夫。親なら仕事でいないから」


そう言って投げかけるがなかなか立とうとしない奈美の様子が心配になって、澪は玄関先まで走った。

一体、何があったのだろうか。

ただ事ではないのはよく分かる。
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