僕らのチェリー

扉を開けると、奈美が突然澪に抱きついてきた。

小柄な彼女はちょうど澪の胸の中にすっぽりとはまる。その体は少し震えていて、夏なのになぜか冷たかった。

その時、澪は違和感を感じた。

いつもと何かが違う。

奇妙な違和感。

その答えは、奈美がゆっくりと顔を上げた時に分かった。


「あんたそれどうしたの」


澪は驚いて言葉に詰まる。

クラスの中でちょっとした人気者の彼女は元々長い睫がきれいにカールしていて透き通るような色白の肌から、まるでお人形さんだと男子の中で騒がれていた。

今、その顔に大きな痣がある。

それは直視していられないほど、青黒く大きく腫れていて痛々しかった。


「とうとう顔まで殴られちゃった」


と奈美は力なく笑った。


「奈美、あの男と別れてなかったの?」


問いつめると彼女は大きく目を見開いた。


「どうして彼氏が殴ったって分かるの?」


澪は答えず、奈美の体を揺さぶった。

彼女の表情が少しずつ歪んでいく。


「ねえ奈美。あの男と別れてなかったの?」

「わ、別れたよ。でもきょう彼から突然会いたいって電話がかかってきて。いつもと様子が違ってたから。だから」

「なんで会いに行ったりするのよっ」


澪の怒鳴り声に驚いたのか、奈美の肩はびくっと動いた。

大きな瞳に涙が浮かんでいた。
< 94 / 173 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop