【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
「私、本当に婚約者なの?」
「それはもちろ……あっ、申し訳こざいませんっ、お客様がお見えなので……失礼しまっす!」


唐澤さんは直角お辞儀をして踵を返す。セキュリティーゲートを走り抜け、開き始めた自動ドアに腕をぶつけてこけそうになっていた。憎めないひとだ。

ロータリーに寄せられた黒塗りのリムジン。唐澤さんは後部座席のドアを開けた。降りてきたのは恰幅のいい年配者……二階堂氏だ。

本当に良いタイミングだ。
唐澤さんはペコペコお辞儀をしながら彼をエントランスへと導く。来客者用のゲートを開き、エレベーターのあるこちらに向かってくる。

唐澤さんと談笑していた二階堂氏は私の存在に気づいた。
眉をピクリとさせたのをわたしは見逃さなかった。


「おう、これはお嬢さん」
「こんにちは。お世話になります」
「まだこの会社にいたのかね。雅くんにはさっさとゴミは捨てろとアドバイスしたんだがなあ?」


ゴミ。このひと、あんな一流ホテルを展開していて、中味はこれだ。信じられない。フツフツと怒りがこみ上げる。


「いまはリサイクルの時代ですから、ゴミも大切な資源のうちです」
「まあ、リサイクルは素晴らしいことだがね。使い古されて本当のゴミになる前に手を打った方が君のためだろうがね」
「ありがとうございます。そう言えば昨夜、お嬢様をお見かけしましたが。私が終電で帰宅する直前でしたから深夜だと思いますけど?」
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