【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
オフィスで雑用を済ませて、私は再びロビーに降りた。今日は誘致を考えている内科医院と歯科医院の視察だ。武田さんは飲食店のリサーチに手がいっぱいで出かけるのは私ひとり。

ロビーに着くと唐澤さんの後ろ姿が見えた。エントランスのガラスの向こう、ロータリーを見ているようだ。誰かの出迎えだろう。彼に声をかけた。


「わっわわわわーっ!」
「そんなに驚かなくても」
「い、いえ。あまりにもタイミングがスゴくてですね」
「タイミング? なんのタイミング?」


と尋ねると、唐澤さんが軽く目を見開いた。ふうん。この様子からして良いタイミングではないのはうかがえた。


「いえ、あの、そのですね、藍本さま」
「で、昨夜は雅さん、見つかったの?」
「はいっ。ロビーに降りる途中でお手洗いに寄ったとかで。無事捕獲いたしましたっ! 今日は藍本さまはどちらに? あ、藍本さまは今日は視察でございましたねっ!」
「なんで知ってるの?」
「ですから、雅副社長の婚約者ですからっ!」
「え……?」
「この唐澤、すべて把握しておりますっ!」


唐澤さんのその台詞に胸がきゅんとしてしまった。それは唐澤さんの声ではなく、もちろん婚約者という単語に対してだけど。
< 104 / 237 >

この作品をシェア

pagetop